捕まえてごらんなさいっ!~意地っ張り令嬢と俺様侯爵の溺愛攻防戦~

「あ、ありがとう。ランス」

「ったく、そんなに心配する必要なんてないというのに。いいか?ベルフォンヌ様は、お前に対して辛辣な話をするために呼ぶわけじゃない。噂が本当ならば、もっと早くに私たちの婚約を潰しているだろう。なぜならば彼女にはそれだけの力があるからな。それに裏でめそめそ泣くような人ではない。まあ、実際会って話をしてみれば分かると思うが」

「……そうなの?」

「ああ。でなければまだ齢二十という年にもかかわらず、外交での功績を残すことはできないだろう。……彼女は私も驚くほどに素晴らしいお人だよ、自信に満ち溢れ、何事にも恐れずに向かっていく根性は大したものだ」

そう言ってランスは優しい笑みを零す。


なぜかまた、チクリと胸が痛んだ。

王女であるベルフォンヌ様を、いくらそこにいないとはいえ"彼女"と呼ぶことができるのは、それだけベルフォンヌ様と信頼関係が築かれているからだ。



そしてベルフォンヌ様を語る際に零れたその笑みもまた、普段では見られないランスのもうひとつの顔。

きっとベルフォンヌ様と一緒にいるときには、自然と出ているのだろうと思う。

「……ねえ、ランス」

「なんだ?」

「どうしてランスはベルフォンヌ様との結婚を受け入れなかったの?国王様はランスとベルフォンヌ様が結婚なさることを望まれていたのでしょう?ランスにとっても悪い話でもないのに、どうして?」

ランスの優しい表情を見てしまったからだろうか。

つい前々から心の中で思っていたことが、そう口から溢れ出てしまった。


私の言葉を聞くや否やランスの顔から笑みが消える。