村に着いてからずっと落ち着かない。

たびたび辺りを見渡した。

「葵くん、尾行されています」

王子の耳元で、緊張気味に囁いた。

「凛音、落ち着け」

「葵くん、次の角へ入ります」

紅蓮殿が囁いて素早く路地に入ると、数名の人影が慌ただしく通り過ぎた。

「あれはーー風早殿の」

王子の肩がピクリと動き、声を潜める。

「刺客をまき、朱雀を解放したことで、警戒を強めてきたか……八咫烏は詮索を悟られたやもしれぬな」

王子の張りつめた声から、緊張が伝わってくる。

「葵くん、こちらで待機を。追っ手をまいてきます」

わたしはフードをサッと、目深にかぶり身構え、尾行者の気配を確認した。

「凛音、1人では心許ない」

「いえ、1人の方が悟られません」

わたしの中で元幽門の徒の勘がザワザワと騒いでいた。