伝えたいことはきっとたくさんある。

 影森の夜空を光る星の数よりたくさんある。

 「……き」

 情けない、空気みたいな声しか出ないな。

 「なに……?」

 奏多はわたしの唇にそっと耳を傾ける。


 これが最後ならちゃんと伝えたい。

 未来で伝えることが出来ないなら、今伝えなきゃ、この先もきっと言えない。

 
 「大好き」

 
 奏多が。

 母さんが。
 
 お父さんが。

 凛子が。陸が。トキさんが。トモちゃんが。


 ーーー大好き


 奏多の瞳が大きく開かれた。

 震える唇で、なにか言ったような気がしたけれど、わたしの耳には届かなかった。

 でも、わたしの心にはちゃんと届いた気がする。

 それが最後だった。わたしの視界から奏多の姿が消えた。


 わたしが最後に目にしたのは奏多の泣いているような淡い笑みだった。