ーーー八月二十五日。


 窓にぶら下がる風鈴がチリンと心地良い音を奏でる。

 「いってきます」

 母さんに向けて声をかけるとわたしは家を出た。

 約束の時間には十分間に合うだろう。

 昨日の夜、電話が鳴った。奏多からだった。

 あれほど待っていた奏多からようやく電話がきたのだ。

 驚きと嬉しさ、それから不安に包まれた。

 
 『明日、夜祭りに行かないか?』

 夕方に会う約束をしてわたしは電話を切った。

 少しずつ西に傾く太陽は最後まで燃えようと踏ん張っているのかな。

 しゅわしゅわ鳴く蝉も生きていることに喜びを感じているのだろうか。


 夏はまだまだ続く。

 追いかけてくる暑さを感じながら、待ち合わせの場所へと足を進めた。