奏多said

波を掻き分けて必死に海に入っていく琴音ちゃんを見たとき、ゾッとした。

お母さんと泣き叫びながら夜の海に入っていく琴音ちゃんは、止めようとする俺たちなんかまるで見えてなくて、狂ったように叫んで気を失ってしまった。

あの日から3日後、やっと目を覚ましたと安心したのもつかの間。今度は5日も目を覚まさなかった。

「琴音ちゃん、おはよう」

「…」

「分かる?まだ眠たい?」

「…」

目を覚ましたはずの琴音ちゃんは、いくら声をかけても反応しない。

手を握ると、肩が跳ねる。でも、それだけで宙を見つめる目はどこを見ているのかさえ分からない。

壊れかけてる。いきなりどうしてこうなったのかは全く分からない。

そっと頭を撫でてもその目が俺を見ることはなかった。