「……別れなかったわよ。

彼が、わたしのこと信じてくれたから」



あのときは。

莉胡がそんなことするわけないよね、って。目の前で突きつけられた写真をびりびりに破いて、わたしのこと抱きしめてくれたのに。



「お~。それが莉胡の好きだって言ってる元彼?」



「……そう」



「いい男じゃねえの。なんで別れたんだよ~」



なんで……か。

千瀬のことを誤解された、と言えば、どうして?となるかもしれないし。誤解された場面に出くわしたのは、わたしが悪いわけだし。



……ああ、でも。

ひとつわかるのは、あのとき信じてくれた十色が、もうわたしを信じてはくれなかったってことだけだ。──二度も同じことを受け入れてくれるほど、彼の心は広くない。




「……浮気しちゃったから、かな」



「え、莉胡ちゃんが浮気しちゃったのー?」



「そんな感じだと思っておいて」



トップに立つ人間は、時に残酷に切り捨てることだって必要で。

──織春もまた、それを兼ね備えてる。



「……なんで浮気したの?莉胡ちゃん」



「ほら、食べちゃいたいぐらいかわいいとか、殺したいぐらい好きって言うじゃない。

──浮気しちゃうぐらい、好きだったから」



千瀬が「なに言ってんの」と言いたげなため息を吐いたことには気づいていたけれど、何も見なかったふりをした。

──悲劇のヒロインだなんて、本当、冗談じゃない。