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耳慣れたくはないけれど、耳慣れたそのエンジンの騒音はわたしが東側にいた頃からよく聞いていたものだ。

十色よりふたつ幼いわたしが月霞に通うようになると同時に、わたしの身のためだと、月霞は暴走をする回数を圧倒的に減らした。



だからわたしが彼の特攻服姿を見た回数も片手で数えられるほど。

月霞の総長室のクローゼットには歴代の総長が着た黒い特攻服が記念に飾られていて、初代以外のものはそろっている。



そしてそのほとんどに「我命有限──」の文字とともに刻まれていた永遠の愛の誓い。

歴代の姫の名前が並び、もちろん2代目総長であるちあちゃんの特攻服にも、いまのお嫁さんの名前が刻まれていた。



けれど、6代目。

十色の特攻服には、『月霞6代目総長』以外の文字は刺繍されていなかった。──だけど。



「莉胡が倒れた日以来だね」



歴代の総長が姫の名前を刻んでいた、特攻服のオモテ面左胸のその場所に。

心臓のある位置で愛を誓うという意味が月霞オリジナルで込められているらしいその場所に、一度刺繍したものの、その後に糸を抜いた痕があること。



──わたしはずっと、知っていた。




「……そうだな」



月霞の暴走のルートは、あらかじめ千瀬がミヤケから聞き出していた。

本人は脅して聞いたと言ってたけれど、何をしたんだかおそろしくて聞けない。



そしてそのルートの最終地点が、累の倉庫であることはもちろん累も把握済みである。

夜になるのは夏だから遅い。──暴走がはじまる時間は21時で、累へたどり着くのは23時すこし前。



羽泉や千瀬が予測していたその時間ちょうどに倉庫前で止まったエンジン音。

騒がしかったのが嘘のように、一瞬で静寂が訪れる。



月霞の人間は一部以外、どうやらわたしと千瀬がいることを知らされていなかったようで目を見張っていたけれど。

普通に喧嘩すると思ってここまで来たんだろうか。



「──本来ならここで喧嘩に入る予定なんだけど。

それじゃちょっと、面白くないよね」



十色が、小さく笑みを浮かべる。

それから「莉胡」と、わたしの名前を呼んだ。