何にしようか随分悩んで、老舗の有名和菓子店の小さなカステラにした。


カステラはあけたらすぐパサパサになっちゃうから、ちゃんと個包装になっている、贈答用のちょっといいもの。

ザラメがちょうどよく控えめな甘さで、とても美味しい。


瀧川さんはカステラお好きだったはずだし、消えものならそんなにご迷惑にならないと思うし、お返ししないわけにはいかないし、といろいろ言葉を探して弾みをつけて、朝一番にお渡しした。


「よろしければ」とか「お荷物になってしまうんですが」とか「いただいたラスクとても美味しかったです。ありがとうございます」とか並べ立てて押しつけるように渡した私に、瀧川さんは「こちらのカステラ、美味しいですよね。ありがとうございます」って笑って受け取ってくれた。


それからは、瀧川さんがいなかった日の翌日に、立花さんへ、と少し右上がりな字で一筆箋が添えられた、小さなお土産がときどき渡されるようになった。


私がそれにまたお返しをし、瀧川さんがお返しとお土産を兼ねたお菓子を買ってきてくださって、私がお返しをする。


それは出張のお土産だったり、お返しだったり、お礼だったり、美味しかったので、という触れ込みの差し入れだったりした。

ドライほおずきとかまるごと林檎のパイとか、季節のものもあった。


お互いの名前の下にはときたま、ご高配痛み入りますとか、いつもお世話になっておりますとか、短い一言が添えられていた。