二日後の朝一番、宣言通りに、ちりんと扉が開いた。


「おはようございます」

「おはようございます、いらっしゃいませ」


冷たい外気と一緒にいらっしゃったのは、今日もスーツを着込んだ瀧川さん。


手に提げてらっしゃる紙袋は、おっしゃっていた職場の方へのお土産兼差し入れじゃないかな。


「ご来店ありがとうございます。いらしてくださって嬉しいです」


一言だけ、控えめに本音を紛れ込ませる。


お会いできたらなんて言おうかなって、あくまで店員としての言葉選びを考えて決めてあった。


一番最初に思いついたのは、お待ちしておりました。


でもこれは、稲やさんでは、ご予約のお客さまが受け取りにいらしたときにしか使わない。


そう考えるとなんだか違う気がして、率直に言った方がいいのかなあと思った。


「こちらこそありがとうございます」


戸口で微笑んだ瀧川さんは、寒さを考慮してか、後ろ手に素早く扉を閉めた。


たくさん持っていらっしゃる紙袋の中からひとつ選り分けながら、カウンターに近づく。


「立花さん」

「はい」

「お土産です。どうぞみなさまでお召し上がりください」

「わ、お気遣いありがとうございます、店主に渡しますね。大切にいただきます……!」


小倉の予約をしてから差し出された紙袋は、結構大きかった。


多分、みなさまで、ということは、瀧川さんの場合、稲中さんご夫婦、息子さんご夫婦、その娘さん、私って感じじゃないかな。