席は確保できたから、ええと、じゃあコートを置いていこう。


ひとつずつ確認していかないと、動揺で頭がうまく働かない。


羽織っていたコートを脱いで、丁寧に畳んで椅子の上に置く。


椅子に背もたれがなくてかけられないので、置いていくしかないから、落ちないように小さめに畳んだ。


よし。あとは椅子を机の下に入れて、通れるようにして。


貴重品も入ってるし、とバッグを持ったまま席を離れようとすると、「よろしければ見ておきますよ。荷物になりますから、置いていかれては」と瀧川さんが声をかけてくれた。


「ありがとうございます。すみません、お言葉に甘えさせていただきますね。よろしくお願いします……!」

「はい」


任されました、なんておどけて笑うものだから、小さく唇を噛んだ。


荷物を預かるなんてただの気遣いで、きっとそんなに意味はないと思うのに、嫌われてはいないんじゃないかって安心する。


声をかけたら預けるだろうと瀧川さんが思ってくれていたということは、荷物を預かってもいいと思ってくれていたということは——それだけで。

それだけで、言葉を飲み込んできた甲斐があったのだ。


ああもう、好き。好きだなあ。


くそう、と表情を取り繕った。