名前を呼んでくれた。

字を褒めてくれた。

相席をした。

初めて制服を着たとき、よく似合うと笑ってくれた。


……手を繋いでくれたこともあった。


いつか、かおりちゃんと呼ばれていた幼いときも、確かにあった。


ねえ、瀧川さん。私、あなたの名前も覚えていないけれど。


たい焼きとか、お庭の景色とか薄茶とか、淡く差し込む日差しとか、そういう、あなたが毎日一瞬だけ愛したものを、私も勝手に抱いていたいんです。


名前を呼ばれなくていい。

笑いかけてもらえなくてもいい。


何も言わないから、あなたが好きなものを、私にも勝手に大事にさせてほしい。


ねえ、瀧川さん。


お願いだから、目がいろいろを追ってしまう私に、少しだけ言い訳をください。


好きだなあ、と、何度目か分からないことを思った。