「はい。突然すみません、お手数おかけします。よろしくお願いします」

「いえ、そんな、ありがとうございます。頑張ります……」


くすくす笑う瀧川さんの密やかな笑い声を受けながら、お座敷を出た。


こういう小さな気遣いが嬉しくて、なんにも言えなくなる。


元から好きすぎてなんにも言えないんだけれど。


「かおりちゃん、どうだった? 大丈夫だったでしょう?」


稲中さんに声をかけに行くと、お二人が穏やかに笑いながら待っていた。


「はい。ご一緒させていただくことになりました」

「やっぱり!」


や、やっぱり?


にこにこする稲中さんご夫婦に、あそこでどうぞ、と一式貸していただいて、隅のテーブルを示された。

すぐに点てられるように、お湯も沸かしておいてくださった。


……ありがたいんだけれど、あの、確信しすぎです。なんでだ。


お抹茶を点てながら、思う。


瀧川さんは、女性とは相席しない。

気のある様子の人とは、特に。


相席できて嬉しくないわけじゃないのに、素直に喜べないのは。


女性と絶対に相席しない瀧川さんから誘われるということは、私が、お付き合いの対象になりうる女性として見られていないということだからだ。


……好きだって伝わらないようにしているのは私。


気持ちを隠して、ただの店員とお客さまにしたいのは私。


でもやっぱり、そういう対象になれないのだと明白に示されるのは、ちょっと、結構強烈にきつかった。