小倉ひとつ。

「稲中さん、瀧川が十七時に小倉ふたつだそうです。大丈夫だと思いますが、もし間に合わなかったら私が受け取りますので。よろしくお願いします」


夫の、という意味での名字の名乗りは、最近毎日のようにしているので慣れてきたものの、少しだけくすぐったい。

要さんがたい焼きをふたつ注文するのにはなんとか慣れたんだけれど。


「はあい。瀧川くんは相変わらず小倉好きだねえ」


稲中さんご家族は、私たちを瀧川くん、かおりちゃんと呼んでいたので、結婚後も特に支障はない。呼び方はそのままだ。


「あら、かおりちゃんも好きでしょう」とお座敷から顔を出してころころ笑う奥さんに、ええ、ふたりとも小倉が一番好きですと私も笑いながら頷いた。


「お見送り行ってきます」

「はあい、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」


行ってきますをふたりで言い、からりと戸を開けて、一歩先に敷石の上を歩く。


「帰ったら私、お茶点てるね」

「ありがとう。楽しみにしてる」

「じゃあ、また。お仕事頑張ってね」

「うん、また。かおりも無理しないでね」

「うん」


名残惜しく大通りまで見送った。小さくひらりと手を振り合う。


その薬指に、私は服の下にかけてある、お揃いの指輪が輝いていた。




Fin.