小倉ひとつ。

同棲を始めてからすぐ、朝食があれだけお気に入りだったカフェのモーニングセットじゃなくなった。今もそう。


要さんは何も言わないけれど、その理由を考えると、こう、頰が緩む。


あと、起こすときにかおりちゃんじゃなくてかおりさんって言ってくれるのも好き。


「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末さまでした」


要さんが私のあいている薬指に触れるのに倣って、私は要さんのもうあいていない薬指に触れた。


婚約指輪と結婚指輪はどちらもネックレスにしてある。


動く度に金属音がすると目立って困るし、傷なんてつけたら悲しいので、婚約指輪のチェーンより結婚指輪のチェーンを少し長くして、動いても指輪同士が重ならないようにしてある。


「じゃあ要さん、お先に行ってきます」

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

「はーい」


服の下の硬い丸みをそっと握りしめながら、足早に歩いた。