小倉ひとつ。

見せたのは明るい色合いの懐紙入れ。


「懐紙入れはもう持ってはいるけれど、要さんがくれたものが欲しいの」


懐紙は外食した後口を拭くのに便利なので普段から持ち歩いている。

紙ナプキンがないお店も多い。稲やさんでお弁当を食べるときもそう。


飲み物のカップのふたがないときに、ふたの代わりに上にのせるなんてこともできる。

いざとなったらハンカチとかティッシュとかの代わりにもなるし。


ちょっと使いたいなと思ったときに、懐紙があるととても便利なのだ。


これからきっと、変わらず使う機会があると思う。


そのときに、今あるただ自分で買ったものじゃなくて、要さんがくれたものがそばにあったなら、嬉しいことも悲しいことも、なんだってもっと優しく変わるはず。


「……駄目かな。せっかくもらうなら、毎日使うものにしたいなと思って」


そうしたらほら、見る度に今日も頑張ろうって思えるはずだもの。


「いや」


いつも穏やかな眼差しが、さらに柔らにほどける。ありがとう、と言われた。


「全然嫌じゃない。……嬉しいよ」

「よかった」


ほっと一息つくと、要さんが優しい顔をした。


「俺、かおりのそういうところが好きだよ」