「あの、すみません、稲中さんが私をからかわれただけで、もちろんお出ししたら失礼しますので……!」


ああもう泣きたい。


なんでからかわれたかは言いたくない。

もちろん私が瀧川さんのことが好きだからだ。


好きだって明確に言葉にはしていないけれど、あんまり分かりやすくてバレているからだ。


すみませんと謝りながらたい焼きを差し出したら、固まっていた瀧川さんがはっとして、首を振った。


「いいえ」


柔らかな声が降る。


「いいえ。是非、ご一緒させてください」


え。


一瞬何を言われたか理解し損ねて呆けた私に、続けて言葉を重ねる。


させてください、に言い換える細やかさに心臓が跳ねた。


その顔は、やっぱり優しい。


「よろしければ、是非」


目尻を穏やかに緩めた瀧川さんが、立花さん、と私を呼んだ。


ああもう。もう、ほんと。


……なんで今名前を呼ぶんですか。


なんで。


それだけでちょっともう、こう、いろいろ駄目だ。


ま、待ってほしい。待って。ほんとにちょっと待って。


内心慌てているのは顔に出ていたらしい。


くすりと綺麗に微笑んで、瀧川さんはもう一度、立花さん、と穏やかに私を呼んだ。


「休憩時間は一時間あるんでしたよね。話し相手になってくださいませんか」


そろりと見上げた瀧川さんの顔があんまり優しくて、固まった。