小倉ひとつ。

その後一週間お休みをいただいて、フランスにお出かけした。


要さんはまだ見たことがない世界遺産を見たい、私は古城ホテルに泊まってみたいという要望で、ふたりの意見の擦り合わせをした結果、フランスがよさそうだね、ということになった。


とても楽しくて素敵なところばかりで、あちこちでお土産をたくさん買い込んで、帰国後いろいろな方にたくさんお渡しした。


飛行機とか私の腕力とか諸々が許す限りの最大容量のキャリーバッグにして本当によかった。


……結婚するとき、約束してもらったことがある。


これからどんなことがあっても、他の女の人にたい焼きをあげないでほしい、という約束。


ご家族に、要さんが稲やさんに行くついでにたい焼き買ってきてと頼まれたら、もちろん渡してもらって構わない。

お仕事で女性とお食事をしておごったり、お付き合いでお花や鞄やお菓子といったものを贈ったりすることはもちろんあると思う。


でも、どうかたい焼きはご家族以外の女性に渡さないでほしい、渡すのは私だけにしてほしい、と。


願うように呟いた私に要さんは目をまんまるにしてびっくりして、ゆっくり笑った。


「約束する」


するりと小指が掬われる。


「かおりの他には誰にもあげない」