小倉ひとつ。

「帰ったら結婚指輪探しに行こう。式場も見に行きたいな」

「わー、行く行く! 探す! 旅行の楽しかったなーって思い出で乗り切ろうと思っていたけれど、そっか、そう考えたらもっと頑張れそう」


結婚式までは毎日それを楽しみにお仕事頑張れる気がする。結婚式後は結婚式の思い出でお仕事頑張れそう。いや元々全然つらくないけれどね。


目を輝かせた私に、要さんが思わずというように噴き出した。


「行く前から楽しかったなーって思い出で乗り切ろうと思ってたの?」

「だって要さんとお出かけだよ。絶対楽しいに決まってるもの」

「そうだけど。俺ほんと、かおりのそういうところ好き」


うぐ。私はそうだけどって即答してくれるところが好きです。


どう答えていいか分からなかったので、ありがと、と口ごもったら笑われた。

優しくて甘い、伏し目がちな笑い方が、ずっと好きだ。


旅先でお願いした通り、しばらくたい焼きをひとつだけにしてくれていたんだけれど、要さんは稲やさんで、ときどきたい焼きをふたつお持ち帰りする。

しかも私がお会計をするときだけ。


絶対わざとだよね、狙ってるよね。むしろ私がカウンターにいるから思いついた可能性があるよね。


……でも、意地悪をしようとしているわけじゃないって分かっている。別に嫌じゃないし。


要さんの、そういうなんでも甘やかにできるところがずるいなあと思う。


でもやっぱりものすごく照れ臭くて恥ずかしかったので、お会計をしながら挙動不審になりかけたら、密やかに笑われた。ひどい。