小倉ひとつ。

「でも俺とは会ったし。若い人も来るし」

「要さんは例外だよ……」

「俺が不安なだけなのは分かってるんだけど。でも実際、全然気づいてくれなかったでしょ」

「無謀だと思ってたんだよー……戒めてたの……」

「全然無謀じゃなかったよ。今も前も無謀じゃない。可愛いなあ、いいなあって思ってた。年上は嫌かなとは心配になったけど」

「私は年下は嫌かなって思ってたから」

「それはあんまり考えてなかった。かおりがいいなと思って」


ひええ、と頭を抱えると、とっておきのワンピースの下で指輪が揺れた。


稲やさんでの勤務がない日は指にはめても大丈夫なのだけれど、なんとなく慣れてしまって、お休みの日でもいつも首から下げている。


それが要さんとしては気になるらしかった。


……うう、でも今から指にはめてもあんまり意味がないというか、結局一番心配してる稲やさんでは指にはつけられないし……。


「ねえ」


うんうん悩む私に、まるで続きみたいに、何気なく。


「俺も瀧川って名字、かおりにすごく似合うと思うんだ」


荷物整理の手をとめて、要さんがこちらを向いた。


「かおり」と呼ばれて、「うん?」と言いながら私も手をとめて振り向くと、要さんはとても真剣な目をしていた。


「かおり。結婚しよう」

「っ」


目がまんまるになった自覚がある。


心臓がうるさい。自然と口角が上がって。うん、と答えた声は、少し震えていた。


「……うん。喜んで」


祈るように組んだ両手に、要さんの大きな手がそっと重なった。