小倉ひとつ。

ホテルのチェックインを済ませて真っ先に向かったたい焼き屋さんで、小さな個室を取る。


注文を店頭で済ませてから、席に移動するシステムみたい。


「何にする? 小倉?」

「うん!」


まずは小倉でしょう。お店の一押しで定番で私たちのお気に入りとくれば、初めは小倉以外に考えられない。


「小倉ふたつお願いします」

「えっごめんありがとう!」


どういたしまして、と要さんが笑った。


抹茶はお薄かお濃茶かしか選べなかったので、ふたりともお薄にした。


たい焼きが来てから、柔らかな日差しが差し込む窓際で、メッセージアプリのアイコンにするべくたい焼きの写真を撮る。


成人式から三年、変えるならあまり周囲とかぶらないものをと思っていたけれど、要さんと私でたい焼きがのっている懐紙が色違いだったからちょうどよかった。


憧れのお揃いのアイコンに変え、美味しいたい焼きを食べ、人力車でのんびり街並みを見て回り、美術館に寄って、ときおり素敵なお店や落ち着いた街並みに寄り道しながらホテルに戻ってくる。


一日でかなり膨らんだ荷物を整理していると、要さんがさらりと言った。


「基本お揃いのときはひとつじゃなくてふたつって注文するんだから、慣れてね」


念願のたい焼き屋さんの店頭で『小倉ふたつお願いします』と注文してくれたとき、お隣でこっそり息をのんでいたのはバレていたらしい。