思わず両手を握ってから、優しい微笑みを思い出して。

名前を呼ぶ度ドキドキして。背伸びをして。好きですを押しこめて。

両手を握っては、教えてくれた要さんの微笑みを思い出す。


そんなふうに積み重ねてきた恋だった。


ずっとずっと好きだったけれど、改めてああ好きだなあと思ったのは、カレーの日かなあ。


その日のたい焼きはカレーで、時間が経つと皮に油分が染み出してしまうものだった。


たい焼きは普通、紙で包んで、紙袋に入れてお渡しする。でも紙だけだと染みるから、ビニール袋に入れてから紙で包んで、小さい紙袋に入れてお渡しした。

接客業としては当然の、あんまり目立たないことだった。


でも瀧川さんは、作業する私に言ったのだ。


『ありがとうございます。お手数おかけしてしまってすみません』


びっくりしてしまって、いいえって呟くのが精一杯だった。


あのときの驚きと嬉しさを、今も鮮明に覚えている。


ただの憧れ。きっかけはそれだけ。


「でもね、他のお客さまにお渡しするときに何回も思い出したよ」

「うん」

「……私もね、それだけなの」

「そっか」


きゅうと手を繋ぐ。視線を指先に落として、顔を見合わせて、ふたりでそっと笑った。