小倉ひとつ。

「っ」


今まで聞かれなかった、お互いになんとなく避けていた話題をはっきり口にされて、思わず言葉に詰まる。


いやその、これまでの態度とか、お泊まりとか、長年の諸々とかで絶対に初めから——というか少なくともお泊まりからは完全にバレているに決まっているのだけれど。

でもやっぱりなんとなく言いづらくて、触れられないのをいいことに、ここまでひたすら避けていた話題だった。


ぎゅう、と右手で服の裾を握る。


「……はじ、めて、です」


要さんは強張る私に優しく笑いかけて、うん、と頷いた。


「はじめてなら、慣れてなくて当然だよ。思い至らなくてもおかしくなんてない」


ただ。


「俺もそんなに慣れてるわけじゃないけど、ちょっとだけ格好つけたくなっちゃっただけだから、気にしないで」


かおりがそばにいてくれるなら、格好なんてなんでもいいんだ。


きゅう、と繋いだ左手を握った。


要さん、と呼ぶ。


「うん、なあに」

「……すき」

「俺も好きだよ」


かすれた声に、穏やかな返事が返ってくる。


「私、ほんとに全然慣れてなくて、知識もなくて、これから先もおかしなことしちゃうかもしれないけれど」


うん、とやっぱり穏やかな相槌。


「そうしたらね、……そうしたら、そのときは教えてくれる?」