小倉ひとつ。

「いや、左手でも右手でも、指輪をはめさせてくれたらそれで充分嬉しいから大丈夫だよ。慣れてないんだな、可愛いなとは思うけど、嫌いになんてならない」

「でも……」


気をつけるけれど、最大限気をつけるけれど、これからもお馬鹿な行動をしてしまうに違いない。


肝心なところで何かをやらかすタチなのは、痛いほど自覚している。


こんな私でいいのかなって不安が、ここに来て急速に頭をもたげた。視線が下がる。


きゅう、と唇を固く引き結んだ私を、優しい声が穏やかに呼んだ。


「かおり」


重ねた手をするりと繋いで、要さんがこちらに目を合わせる。


低い体温。触れそうな鼻先。甘くほどけた眼差し。その奥に映る、今にも泣いてしまいそうに歪んだ私。


視線をそらしてうつむいた私に、かおり、と何度も呼び声が降る。


その声があまりに優しい。優しくて、穏やかで、ひどく甘くて。熱のこもった、ふたりきりのときだけの、私以外に向けられない声色。


湿った呼吸を整えようと、深呼吸を繰り返した。


ようやく落ち着いてきて。呼ばれた名前が五回目を数えたとき、柔らかな黒にもう一度覗き込まれて、おそるおそる顔を上げた。


大丈夫だよ、かおり。


「俺が、はじめてなんでしょう?」