小倉ひとつ。

結婚指輪のために左手の薬指をとっておくひともいる、とは聞いたことがあるけれど、普段あんまりつけられないんだから、せっかくなら今くらいは左手にはめてほしい。


すぐさま右手を引っ込めて、左手をのせる。


「ごめん、本当にごめん……!」

「いや、大丈夫。ごめん、俺の言い方が悪かった」


くすくす笑いながら、「そうじゃないかなとは思ってたけど、本当に慣れてないんだね」と言われたけれど。


「えっ、普通に過ごしてたら指輪になんて慣れないよ……!?」


目を剥いた私はわるくないとおもいます。


指輪に慣れるってなんだ、そんなに贈られたらはめる指がなくなってしまう。

慣れるくらい回数をこなしたら、両手がジャラジャラになっちゃうじゃないか。


「いや、指輪にじゃなくて、恋愛ごとにって言うか。この流れで右手を出されるとは思わなくて。右につけるって聞いたことがあるのかなとも思ったんだけど、完全に何か分かってない顔だったから」


どうしたんだろ、何かくれるのかなって思ったでしょう。


おかしそうに笑われて限界だった。


……ごめんなさい、思いました。本当にごめんなさい。


要さんが笑ってくれたからよかったものの、怒られても仕方のない場面である。


せっかくの雰囲気も何もない。本当に本当に申し訳ない。