小倉ひとつ。

婚約指輪だから少し遊び心のあるものでも、と言ってくれたので、ピンクゴールドのシンプルなものをお願いした。


要さんの方をマットなハンマー仕上げにして、私の方は少し細めのものにしたので、そんなにフェミニンじゃない。


たまたま見かけて素敵だなあとおそるおそる候補にあげてみたら、「かおりのイヤリングみたいで素敵だね」と嫌がらずに推してくれた。優しい。


イニシャルも刻めたけれど、日付だけにしてもらった。


立花かおりも瀧川要も、お互いイニシャルが同じだとここで気づいて、思わずふたりで声を上げて笑ってしまって。

それならイニシャルはいらないかな、ということになって、日付だけ刻んだ。


メッセージもモチーフもなくていい。日付だけがあれば、それで充分だ。


Sep.10th——要さんの誕生日でもあり記念日でもある日付が美しく刻まれた、届いたばかりの指輪をためつすがめつしていると、要さんが笑って、優しく私を呼んだ。


「かおり、手出して」


差し出された手のひらにうん、と右手を出したら、「左手はとっておきたかった?」と首を傾げられた。


ん? んん? 左手……?


はっとして慌てて首を振る。


「違うの、ごめん何も考えてなかった!」


指輪のことだなんて思わなかった。婚約だなんて重大イベントに縁がなさすぎて、今持っている指輪をはめることなんてもう頭からすっかり抜けていた。

綺麗だなあって単純に眺めて楽しむ気満々だった。


自分のことながら、考えていなさすぎである。


もう少ししっかりしないと。


恋人って甘い余韻に浸って、浮かれてばかりではいけない。せめてあまりにも間の抜けた行動を減らしたい。