小倉ひとつ。

プラネタリウムにお祝いのお出かけをしたり、代わりに受け取る郵便の瀧川って名字に舞い上がったり、稲やさんで季節のたい焼きやおはぎを買い込んだりしているうちにあっという間に季節がふたつ巡って、要さんのお誕生日が来た。


三十かあ、と本人はまだ湧かない実感に不思議そうにしている。


プレゼントは折りたたみ傘にした。


お誕生日と同じ週の週末を一日もらって、こちら持ちでお食事したりお出かけしたりもしたけれど、明確な形のプレゼントも渡したかった。


要さんは必要なものはその場で買ってしまうし、記念品より実用品の方が好きだし、私もそうだけれど、サプライズよりはそのとき欲しいものとか好みとかを聞いてほしいタチ。


少し前にちょうど古くなって錆びついてきたと聞いていたので、じゃあ私が贈るから、買うのを待ってほしいとあらかじめお願いしておいたんだ。


傘といえばここ、という有名な英国の王室御用達ブランドで、大ぶりで軽くて丈夫な、お仕事の邪魔にならない色合いのものを選んだ。


決め手はハンドルの樫木。鈍い艶と木目が本当に美しくて、要さんに似合うと思った。


「ありがとう。大事にする」

「うん」

「一旦置いてくるね」

「うん」


大事そうに抱えて仕事用の鞄にしまいに行き、のんびり戻ってくる。


「おかえり」

「ただいま」


伏し目がちに笑った要さんは、ソファーに座る私の隣にそっと座った。


「かおり、あのさ」

「うん?」

「指輪選びに行きたいんだけど、いつだとあいてる?」