このお仕事の割り振りについては、以前、まだ私が大学生だったのときの話し合いで、おおよそ方向性を決めてあった。


簡単にだけれど、私が茶道や華道を習っていること、いろいろやってみたいと思っていることなどから、こういう方向がちょうどいいのではってまとまった。


資格を取るなら、試験料とかテキスト代とか、援助してくださるともおっしゃっていただいている。

私の自由時間が取れるように、細やかな調整もしてくださって。


だから慣れた仕事がメインで、新しい仕事はひとつだけなのだ。


初め、あまりの申し訳なさに恐縮したら、「あらやだ、私達を応援したいって言ってくれているかおりちゃんの応援を、私達にこそさせてほしいのよ」と奥さんに微笑まれた。


「そうだよ。他にも選択肢があったのに、せっかくこれからのお仕事にここを選んでくれたんだから。かおりちゃんが働きやすいようにお手伝いするのは、うちの仕事だよ」と稲中さんがにこにこしていた。


「かおりちゃんみたいに頑張り屋さんなひとと一緒に働けるのは、すごく安心だし、嬉しいよ。俺があとを継ぐのはもう少し先のつもりだけど、継いでからもよろしくね」と稲中さんの息子さんが笑ってくれた。


「やだ、気が早すぎじゃない? お義父さんにはまだまだお元気でいていただかないと」ってお嫁さんが突っ込んで。

「かおりちゃん、うちの娘のこと、いつも可愛がってくれてありがとうね。これからもよろしくね」って言ってくれた。


私の周りは優しい方ばかりだ。

稲やさんは優しい方ばかりだ。


新卒って大きなカードを、安定を求めて大企業に就職するために使わなくても。稲やさんでなら、きっと大丈夫だと、思った。


「稲中さん」

「なあに?」


繰り返しになるけれど、もう一度頭を下げる。


「今後とも、ご指導のほど、よろしくお願いします」

「ええ。もちろんよ。よろしくね」


眩しい眩しい憧れに、いつか追いつきたいと、思った。