「それは勤務時間に余裕ができたら見ておいてくれればいいからね。覚えるのはお仕事だから、お仕事の間だけ見て、おうちでは無理しないでゆっくり休んでね」


かおりちゃんは真面目だから一応、とつけ足されてはっとした。


「はい……!」


そうなんだ、そっか、残業みたいになっちゃうもんね。


「目標は決めたけれど、絶対テストしないから。安心してのんびりどうぞ」

「はい」


思わず笑いがこぼれる。


奥さんが緊張をほぐしてくださっているのは分かっている。それから、稲やさんがとても優しい環境なことも。


「かおりちゃん、手帳は使ってる?」

「はい」

「よかった。じゃあ、お誕生花は一年で全部覚えなくて大丈夫だから、手帳にメモしておいて、たまに翌月の分をざっくり確認だけするようにしてもらえるかしら」

「はい」


何年かやっていくうちに自然と覚えるでしょうから、ゆっくりね、と笑ってくれた。


……私、こんなに甘やかされてていいんだろうか。


「お花は徐々に覚えていってもらって、三年後とか五年後とかくらいに、最終的にはかおりちゃんひとりで仕入れて生けられるようになってくれたら嬉しいわ」

「はい」

「それからね、お茶の仕入れもお願いしたいの。お茶は何を使っているかとか、どちらにお願いしているかとかは知ってたわよね?」

「はい、大丈夫です。以前一度教わりました」

「そうよね。じゃあ、ちょうど今日発注する予定だったから、お昼休憩の後で一緒にやってみましょう。一応メモを取れるようにしておいてね」

「はい、よろしくお願いします」


そんなこんなで説明を聞き、半年後や一年後の目標もざっくり話し合い、カウンターで引き戸が開くのを待った。

要さんが来るはずだから、注文を受けてからお掃除をする予定。