「でも服は選んでほしいな。好みを知りたいんだけど」

「知らなくていいよ……!」

「ええ、教えてよ。好きな人には好かれたいでしょ」


うぐ。


ずるい。要さんばっかり余裕がある。


「いや、無理に選ばなくてもいいんだけど、つまりはね。デートに行きたいなってことだよ。行きません? デート」

「でっ」


すごい単語が出てきて口を開け閉めした。


「今日は、飲まないんでしょう? お酒が苦手じゃないなら、今度は飲みに行きたいなって」


は、にアクセントがついている。


ゆるりと手元で揺れるシャンパンは、少しずつ飲んでいたせいで炭酸が抜け始めていた。


「今度も緊張すると思う……」

「じゃあ慣れるまでは飲まなくていいから、飲めるようになったら教えて」


にっこり微笑まれたけれど、まさかの自己申告ってものすごく恥ずかしくない? いろんな意味で恥ずかしくない?

というか、お酒を楽しめるようになるまで何回でもお食事に行こうねという約束ですよね、それは。


「絶対全然慣れない……むり……」

「無理かー。俺としては飲みでも買い物でもなんでもいいんだけど、デートには行きたいかな」


その間に慣れてくれれば嬉しいよ、と甘く笑って。


「ね。行こう? かおり」


必殺畳み掛け。とどめの名前呼びにもはや白旗を上げるしかない。


「……いく」


なんとか絞り出した頷きは、嗄れてかすれて聞き取りにくかったけれど、要さんはとてもとても嬉しそうに笑ってくれた。