小倉ひとつ。

「ま、待ってください、……待ってください、あの」

「はい。なんですか?」


両手で顔を覆ってしまいたい衝動を必死に耐えて、無理矢理前を向いた。瀧川さんはやっぱりかっこよかった。


「あの、ええと」


要くんとか要とかとは呼べそうになかったので。


「瀧川さん。要さんって呼んでもいいですか?」


瀧川さんが目を見開いてから、ゆるりとすがめた。甘く笑う。


「はい」


うっ、かっこいい。


「口調、崩してもいいですか」

「はい」


幼いときは敬語なんて使っていなかった。


敬語を使うのは距離が遠いときの思い出しかなくて、丁寧語のですますでさえ、距離が遠い気がする。


あの頃の距離に戻りたい。でも、目上だからやっぱり敬語の方がいいのかなと思って確認してみた。


「ほ、ほんとに? 本当に大丈夫? 失礼じゃない、ですか」

「本当に。大丈夫、全然失礼じゃないよ。すごく嬉しい」


穏やかに言いきった要さんをじっと見つめてみたけれど、嬉しいよ、ともうひとつ落とされて意を決した。


「じゃあ崩すけれど、いつでも直すから、嫌になったら言ってね」

「嫌になんてならないよ。嬉しい」


即答がどんどん柔らかさを増していく。声音に甘さが混じっていく。


「……あり、がとう。でも本当に、何かあったらいつでも言ってね。目上だし。……要さんに、嫌われたく、ないの」

「うん。でも本当に、嫌いになんてならないのに」


年上じゃなくて目上って言ってくれてありがとう、と言われて限界だった。


駄目だ、好きだ。


すきだ。