小倉ひとつ。

こちらで、ともう一度お渡しすると、まず真っ先に着物の色を確認した瀧川さんが、控えめに全体を見て、優しく笑った。


「ほら、やっぱりよくお似合いじゃないですか。素敵ですね。お色も本当に味わい深いというか、趣きのあるお色で。確かにこれはなかなか言い表しにくいですねえ」


なんでそうすらすら出てくるの……!


安定のしゃかいじんりょくに撃沈する。


「瀧川さんはお写真ないんですか?」

「卒業式の写真ですか? 残念ながらありませんが、ただのスーツですから、別段仕事のときと変わりませんよ」


じゃあかっこいいに違いない。


「残念です。袴をお召しになってないかなあと思ったのに」

「残念ながら。周りに袴を着る人があまりいなかったものですから、袴は成人式のときに着たきりですね」

「成人式のときのお写真は……」

「手元にはありませんが、実家にはあります。今度お会いするまでに、写真を撮って送ってもらっておきますね」

「ありがとうございます、楽しみにしています!」


楽しみにされるほどのものでもありませんよ、と言われたけれど、いやだ、私にとっては楽しみにするほどのものですよ、とにっこり笑っておいた。