「お待たせいたしました」

「いいえ。……あなたが、書いていらしたんですね。ずっと通っているのに知らなかった」


カウンター前に立った瀧川さんが、棚を見ながら呟いた。


「はい。春先に一新しまして、そのときから書かせていただいてます」


私が作業するのはいろいろ準備が終わってからで、混雑前の時間にささっとだ。


お客さんがひとりしかいないときにちゃんと対応しなかったら失礼だし、忙しいときは忙しくてさばくのに精一杯だし。

瀧川さんが来る時間は瀧川さんのご対応をするか忙しくしているかのどちらかで、絶対に作業はしていないはずだから、知らないのは当然のこと。


「達筆でいらっしゃるんですね。手書きのようだから、どなたが書いていらっしゃるんだろうと思っていたんです」


読みやすい字でお羨ましいです、と爽やかに褒めてくれる瀧川さん。


すごい。さすが手慣れている。


「ありがとうございます、光栄です。すっごく頑張って書いているので、そうおっしゃっていただけるととっても嬉しいです。もう、書くときは緊張して緊張して……!」


とりあえず、喜びを前面に押し出しつつ、ちょっとだけおどけてみる。


多分謙遜されると思っていたんだろう瀧川さんは、ちょっと目を見張って、堪えきれずに噴き出した。