ふわり、口元が弧を描く。気に入ったのは明白で。


「いくつご用意いたしましょうか」


先回りして尋ねると、吾妻さんは少し恥ずかしそうに微笑んで、ふたつ注文してくれた。


「前も書いていたけど、これもかおりちゃんが書いたの?」


かぼちゃのたい焼きをお包みする間、手持ち無沙汰だからだろう。


棚を見ながらにこにこ聞かれたので、私もにこにこしながら頷いた。


「はい。商品陳列は私のお仕事なんです。手書きの場合は字を揃えた方が見栄えがよくなりますし」

「そうねえ。いつも素敵だわ」

「ありがとうございます」


にっこり笑った隅で、順番待ちしていた瀧川さんが、小さく目を見張った。


珍しくいつもより遅いお昼の時間だから、多分お仕事がお休みの日なんだろう。


注文はひとりずつ順に承るので、順番待ちの人には隅の丸椅子に座って待ってもらう決まりだ。


「お待たせいたしました。お出口までお持ちいたします」


ほかほかのたい焼きを包んで、出口を指し示す。指は揃えて、が基本。


「お熱いのでご注意くださいね」

「ええ、いつもありがとう」


出口で吾妻さんにできたてのかぼちゃたい焼きをふたつお渡しして、お辞儀をする。


この時間にいらっしゃるときは瀧川さんは急いでいないから、先客を出口までお見送りしても大丈夫。邪魔にはならない。


「ありがとうございました。また是非いらしてください」

「ええ、また来るわ」

「はい。お待ちしております」


この時期は扉を開けっ放しだと少し寒い。


手早く丁寧にお見送りしてから、うるさく鳴らないようにそっと扉を閉めて、早足でカウンターに戻った。