「いらっしゃいませ」

「こんにちは」

「こんにちは。吾妻(あづま)さん、いつもありがとうございます。今日も抹茶ですか?」


吾妻さんはいつも抹茶のたい焼きを買ってくださる、上品なおばさまだ。もちろん常連さん。


べっ甲の眼鏡と豊かな白髪が似合う素敵な方で、将来はこんなふうに歳を重ねたいなと思うような人。


ええ、と柔らかに頷いた吾妻さんは、棚の端に目を留めた。


「あら、新作? かぼちゃなんてとっても美味しそうね。ひとついただこうかしら」

「ありがとうございます。かぼちゃの甘みを活かすために、お砂糖を控えめにしているんですよ。ご試食なさいますか?」

「ありがとう、いただくわ」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


吾妻さんに隅の丸椅子に座ってもらって、丁寧にお辞儀。


少し早足でカウンターに向かい、あんがたっぷり入ったお腹のところを切り落とす。


かぼちゃのあんが見えるように赤い紅葉の小皿にのせて、黒文字を添えた。


赤には焦げ茶色がいい。秋らしくした方が、きっとかぼちゃも映えるだろう。


「お待たせしました」

「ありがとう。……ふふ、素敵ね」


優しい視線が小皿と菓子切りに向けられて、嬉しくなる。


秋らしく選んだのは伝わったらしい。

夏は淡い色の爽やかな組み合わせにしていたからかな。


ありがとうございます、と笑った私に、吾妻さんも笑って、「それじゃあいただくわね」とたい焼きを口に運んだ。