小倉ひとつ。

ありがとうございますを二人で言って、商品棚の脇を連れ立って歩く。


案内してもらったお座敷は個室で、こっそり瞬きをした。


個室、初めて来た。いつも大人数が入れる方に通されるのに。


個室じゃなかったのはひとりで来てたからかな。ふたりだと個室なんだろうか。


内心どきどきしつつ、ふたりで使うには広々している畳の隅にコートとか鞄とか荷物をまとめて置く。

店内は暑いくらいに暖かい。


ご注文がお決まりのころに伺います、とメニューを渡して、奥さんは一旦お座敷の引き戸を閉めてくれた。


瀧川さんが物珍しげに一周見回す。


「個室なんですね」

「個室は私も初めて来ました」


おや、というような顔で瞬きされたので、瀧川さんとご一緒させていただいたからかもしれません、ありがとうございますと現金な方向におどけておく。


笑わないと駄目だ、個室なんて緊張してしまう。


稲やさんでもお座敷でご一緒したことはあるけれど、稲やさんはおなじみの場所すぎて、ふたりきりでもまだなんとかなった。


知り合いが大勢扉の向こうにいたし、扉を挟んだ向こうがざわめいていて、人の気配がひそやかにあったし。


でも、なじみのお店とはいえ初めてのお部屋で、奥まったところにあるからか全然人の気配がしないと、ふたりきりだって意識せざるを得ない。


個室だなんて思わなかったから、心の準備が全然できてない……!


話題を変えなくちゃとメニューを手に取る。