瀧川さんが少し重い引き戸をがらりと開けてくれた。


ありがとうございます、とお隣を見上げつつ、素早く中に入る。


「いらっしゃいませ。あら、かおりちゃん!」


出迎えてくれたのは、店主さんの奥さん。

高校生のときからお茶にお菓子にと通っているので、すっかり名前を覚えていただけた。


「こんにちは、いつもお世話になっております。今日は十一時二十分にお座敷を二名でお願いしていたんですが……」

「はあい、いつもありがとうございます。ご案内しますね」

「はい」


奥さんはいつも、世間話をするときは口調を崩して、対応をするときは丁寧にしてくださる。


親しみを感じる崩した口調も、お客さんとしての丁寧な対応も嬉しい。

でもやっぱり、お客さんとして対応してもらえると、なんだか大人になれたようでとても嬉しい。


大学以外のお世話になっている場所だと、私の周囲には私より目上の方が多い。稲やさんもそう。


相手の方と私の間には、どれだけ背伸びをしても埋められないものがある。


お孫さんとか娘さんとかみたいに近しい感じで可愛がってくださる方が多い。


もちろんそれも嬉しくてありがたいんだけれど、だからこそ、たまにお客さん扱いをしてもらえると、なおさら際立つ。


私は背伸びをしたかった。


大人として対応してほしいって思っている自覚があった。ずっと。