小倉ひとつ。

「以前はお名前でお呼びしていましたよね?」

「そうですね、私が中学生か高校生のころで……立花さんは、まだ小学生になる前と、小学生になってしばらくの間だったと思います」


そう言われて思い出す。

そうだ。私が十歳になったときに、小学四年生の春、要さんと呼ぶのをやめたのだ。


お兄ちゃんじゃなくてお兄さんと言っていたのも、要くんじゃなくて要さんと言っていたのも、精一杯の礼儀のつもりだった。


憧れに、尊敬に、確かにあのとき恋がにじんだ。


このひとに嫌われたくない。私を占めていた——今も占めているその願いは、思えばきっと、恋の始まりだった。


私が要さんから瀧川さんに呼び方を変えてから、瀧川さんも私をかおりちゃんではなくかおりさんと呼ぶようになった。


合わせてくれたんだと思う。小学生になって、もう十歳になって本人も呼び名を改めたんだからって、きっと優しさから、何も言わずに私に合わせてくれたんだろう。


でも私には、それがつらかった。悲しかった。


自分が呼び名を変えたら、相手も私の呼び方を変えるかもしれないなんてこと、背伸びをするのに手一杯で、全然思いつかなかったから。


そうしてかおりさんから立花さんに変わったのは、私が制服を着始めた、中学生の頃。瀧川さんはとっくに大学生だった。