小倉ひとつ。

「一番最初に点てていただいたときも調整してくださってたんですか?」

「ええ、一応。稲やさんでもやっていることですから」


全然大変ではないんですよ、と笑ったら。


「いつもありがとうございます。おかげさまでいつもとても美味しいです」


真面目な顔で深々と頭を下げられたので、「恐縮です。でもお礼はどうぞ、奥さんに」と返しておいた。


瀧川さんの好みを詳しく教えてくださったのは、やっぱり奥さんだ。


「明日にでもお伝えしに伺います」

「ありがとうございます。喜ばれると思います」


たい焼きを受け取るのはお昼だから、そのときなら奥さんも表に出ているはず。

さっと近寄って短くお礼を言うくらいはできるだろう。


そんな話をしていると、いつの間にか食べ終わっていた。


懐紙を畳み、片付けをして、荷物を整理する。


約束したのはたい焼きだけだった。


……たい焼きは作り終わったんだし、作り方の説明もしてあるし、すぐに失礼した方がいいんだろうか。


でも、まだお話していたい。まだ帰りたくない。


何を話したいか思いつくわけでもない。でも、まだ。

叶うなら。


……わがままだって、分かってはいるけれど。