小倉ひとつ。

のんびりお薄を傾けつつ、ゆっくり食べる。


「お薄もたい焼きもとっても美味しいです。ありがとうございます」

「それはよかった。こちらこそありがとうございます」


頂戴しますといただきますを言ってそれぞれ口をつけると、どちらも素敵なできばえだった。


たい焼きは割って確認しなかったけれど、生焼けにならずに美味しく焼けている。


「立花さんは、稲やさんにいらっしゃる方の好みを把握されてるんですか?」


先ほど抹茶の量を増やしたからだろう。瀧川さんはこのくらいで、みたいなことを言われたら、それは気になるよね。


「ええ、分かる方は把握しています。常連さんの好みは奥さんが教えてくださったので、知っている方が多いです」


今日はどうでした? なんて聞くわけじゃないけれど、今日は飲みやすそうだなとか、この方はお濃茶もお好きだからあんまり薄い味すぎると苦手かもしれないとか、少し量が多めの方が嬉しそうだとか、そういう細々したことに気づいたら、稲中さんの奥さんが共有してくださる。


熱いのが好きだとか、この抹茶が好きだとか、雑談がてらお話してくださるお客さまもいる。


メモを取らなくても、自然と覚えていった。