小倉ひとつ。

「ええと……ああ、分かりました。こうですか?」

「そうです!」


頷きながら手を離す。もう大丈夫だろう。


初めてなのに綺麗に点てられている。よかった。


「最後はお薄の表面というか上というか、浮かんでいる泡だけを優しくなぞるイメージで、平仮名の『の』の字を書いて、泡を細かくして消してください」

「こう、ですか」

「そうですそうです。完璧です」


空中に指でのの字を書いてみせると、それも綺麗にできた。


泡がほとんど同じ大きさになっている。瀧川さん、やっぱり器用だなあ。


ほう、と息を吐いた瀧川さんに、にっこり笑う。


「すごい、お上手ですね」


綺麗にできてよかった。

私の初回はお湯の入れすぎと抹茶の入れすぎ、最初の溶かし不足、点てる速度の遅さによって散々だったからね。


抹茶の入れすぎと点てるのが遅くて冷めてしまったお湯の温度のせいで、お薄なのに泡が立たない、量が多い割に味が薄い、飲むと溶けきらなかった抹茶がダマになっているという。


もう悲しかった。


ダマになった抹茶の粉末が細かく入り込んで、茶せんを洗うのも大変だったし、全然美味しくなかったし。

でも頑張ってちゃんと飲み干したけれど。