小倉ひとつ。

「点てるときは、手首のスナップを効かせる感じでこうです」

「こうですか」


すごく真剣な顔でやって見せてくれたんだけれど、ちょっと違う。


うーん、一緒にやったら分かりやすいかなあ。


「そうですね、……ええと、すみません失礼します」


瀧川さんの手の上に、自分の手を重ねる。


ぴくりと跳ねた大きな手が、固く強張ったのが分かった。


「瀧川さん」

「…………はい」

「驚かせてすみません、手をお借りします」


短く謝って、瀧川さんの返事を聞く前に、それでですね、と説明を続ける。


お抹茶をこのまま放置していたら、お湯がどんどん冷めて、綺麗に点てられなくなってしまう。

お薄は温かい方が美味しい。


初回が失敗したら悲しすぎるもんね。早く説明して早く点てないと。


「点てるときに力はいらないので、力を抜いていただいて大丈夫です」

「……はい」


まだちょっと力が入っているけれど、さっきよりもずっと軽い。


これなら私でも動かせる。よし。次次。


「点てるときは手首の返しで点ててください。素早くこうです」


しゃしゃしゃ、と手を添えたまま四、五回動かすと、力加減と手首の返し方を掴めたらしい。