小倉ひとつ。

すぐそばでがたりと音がした。シンクにおたまとボウルを置いたんだろう。


続けてお水が流れる音がする。


ボウルにお水を貯め終わったんだろうか。

蛇口をひねったらしく、きゅ、と短く鳴って、お水がとまる。


たい焼きが焼ける音しかしなくなると、いよいよ私の心音を誤魔化してくれるものがなくなった。


ああ、もう。全身が心臓になってしまったみたいだ。


ゆっくり口を開く。


「落ち着くまでもう少し待ってくださいと言うのは、駄目ですか」

「そうしたら来てくださる?」

「う、……はい、焦げないように見に行きます」


落ち着くまでだと、それが一体いつまでなのか分からない。いつまででものらりくらりとかわせてしまう。


それでは本当に、キッチンにいてもお邪魔になる。


ひとまず焼く間だけと示すと、分かりました、と了承が降ってきた。


「そんなに気になさらなくても」

「どうしても気になるんです……!」


覗き込んだのは瀧川さんなのに、なんで瀧川さんは照れてないんだ。覗き込んだ側だからか。くそう。


でも今現在、私が全くもって役に立っていないのは確かなので、すみません、と手のひらの間からこぼしたら。


「別に、照れていらっしゃるのも可愛いのに」


寄越された呟きに、体温が沸騰した。