小倉ひとつ。

百八十……!


戸棚のものに余裕で手が届くうえ、なんなら低い天井だと頭をぶつけると噂の身長じゃないですか。

いや、瀧川さんはぶつけなさそうだけれど。


でもそうすると、約十五センチ差なわけだから、確かにもっと手の大きさが違ってもおかしくはない。


身長の割に小さいというのはそういうことだろう。


「じゃあ私は、十五センチヒールを履けば瀧川さんと同じ目線になれるんですね」

「そうですけど、十五センチヒールって歩くのつらくないですか?」

「私は無理です」


多分一歩も歩けないと思う。

そもそも、普段からあんまりヒールが高い靴を履かない。靴に片足を入れただけで疲れそうな気がする。


即答に、瀧川さんが笑いを堪えるように肩を揺らした。


「うーん、ヒールが無理だと段差を利用するしかないですよね」


十五センチの段差って階段くらいしかないんじゃない?

でも少し高いヒールを履いてから低い段差を利用すれば、そんなに頑張らなくても大体十五センチぶんになりそう。


なんとしても身長差を埋めようとする私に、瀧川さんが冷蔵庫から生地を取り出しながら笑う。


「座ったときは大体同じくらいの目線になるじゃないですか」

「それは座ったときですもん。立ったまま同じ目線になってみたいんですよ」

「ああ、なるほど」


でも、とボウルを置き。


「そんなに面白いものでもないと思いますよ」


こちらに大きく二歩近づいた瀧川さんは、キッチンのテーブルに手をついて。


「……ほら」


私を覗き込む。


「ね?」


屈んだ瀧川さんの顔が、目の前にあった。