小倉ひとつ。

そんなわけで、一度懐紙を処分して、私は横で見ていた。


生地は先ほどの残りを使うので、粉を振るわなくていい。冷蔵庫で寝かせることを鑑みて、ひとりふたつ食べる計算の元、少し多めに作っておいた。

あれは英断だった。粉を振るうのは意外と大変なんだ。


というわけで、まずはあんこを握る。


「このくらいでいいですか」

「いいと思います。でももう少し……そうですね、小指の第一関節ぶんくらい増やしても大丈夫ですよ」


あんこはぎっしり入っていた方が美味しいですから、と小指を立てると、瀧川さんも小指を立ててすごく真剣に増量した。


「瀧川さん、手大きいですよね」


小指って言ってよかった。小指一本じゃなくて第一関節って言ったのも正解だった。そのくらいかなという予想は合っていたらしい。


軽々握る手に感心していたのだけれど、瀧川さんはあんまり実感が湧かないみたいだった。


「そうですか?」と洗った手を開いたり閉じたりしている。


「そうですよ。比べてみたら一目瞭然だと思います」

「ちょっと待ってください、手拭きますね」


比べるべく前に向けた手を認めて、律儀にしっかり手を拭いてくれた。


「右手ですよね?」

「右手です。せーの、……あ、待ってください下ずれました」

「ええと、立花さんがもう少し下で……」

「こうですね、こう」


ぴったり右手を合わせると、私の指先から瀧川さんの第一関節がまるっと覗いている。