小倉ひとつ。

「おなかはまだすいてらっしゃいますか」

「大丈夫です」


多分あとひとつが限度だけれど、たい焼きはまだ入る。


頷くと、使い終わった懐紙を綺麗にたたんだ瀧川さんは、ちらりとキッチンを見遣った。


「私がやってみてもいいですか?」

「どうぞどうぞ!」


まずもってあれは瀧川さんのものだ。


私も懐紙を折りたたみ、いそいそキッチンに向かおうとして気づく。もしかして、隣に私がいたらやりにくいんじゃない?


「瀧川さん、私、見ていない方がよろしいですか?」


もう手順は説明している。瀧川さんはとてもマメにメモを取っていたから、そのメモを見ながらやれば、二度の説明はいらないはず。


「えっ、隣にいてくださらないんですか」


じっと見られていてもむしろやりにくいかなあと思っての発言は、見開いた目によって言外に却下された。


「いえその、じっと見られてたらやりにくくないですか?」

「やりにくくはないですね。よろしければ、失敗しそうになったらアドバイスをいただきたいのですが」


そうなのか。じゃあ、アドバイス要員としてお隣にいればいいんだろうか。


「分かりました。お邪魔しますね」

「ありがとうございます、よろしくお願いします」

「いいえ」