小倉ひとつ。

「瀧川さん」

「はい」


舌がもつれそうな呼びかけを、なんとかひねり出す。


「……あの」


さあ、言え。今だ。


震える唇を、こじ開けた。


「もしよろしければ、先ほどお話したお茶屋さんを是非ご案内させていただきたいんですが、いつ頃でしたらご都合よろしいですか?」


よし言いきった。もしよろしければなんて前置きをしないと言えそうになかったけれど、とにかく言いきった。

わたしがんばった。よし。


息をのんでじっと見つめる。


瀧川さんは、少し驚いたみたいに一瞬目を見開いてから。


「ありがとうございます、是非」


嬉しいです、と優しく微笑んでくれた。


「立花さんは、再来週の土曜日はご都合いかがですか」


やっぱり休日が動きやすいよね。再来週の土曜日は相変わらずあいている。


「はい、大丈夫です。お店は私の家の近くにありまして、こちらからですと少し遠くなってしまうんですが……」


ご案内しますので、駅に待ち合わせでもよろしいですか、と私の最寄駅を告げる。


「はい。お手数おかけします」

「とんでもないです!」


わたわた手を振った。


お誘いしたのはこちらだもん。


予定が合わないとかおひとりで楽しみたいとかならともかく、せっかく行ってくださるのにご案内もしないで放置だなんて、なんでお誘いしたのかなという話になってしまう。