小倉ひとつ。

「簡単なものですが。お熱いのでご注意くださいね」


ふたりでそれぞれ自分のぶんを運んで、試食と相なった。


「お点前頂戴いたします」


慣れた仕草で受けた瀧川さんが、二回回して、そっと口をつける。


「……美味しい」


何かを聞く前に、ほう、ともれた吐息とため息のような呟きに、思わずニヤけた。


ああ駄目だ、顔が緩んでしまう。

嬉しい。結構なお点前で、なんて形式ばった言い方じゃないところが、なおさら嬉しい。


ありがとうございます、と緩みきった顔をなんとか固めて言ったところで、いただきます、と次はたい焼きへ。


「いかがですか」


おそるおそる伺った私に、「美味しいです」ととてもいい笑顔で頷いてくれた。


「よかったです」


ようやく私もいただきますを呟いて、さくりとたい焼きを食べる。


ぎゅっと詰まったあんこが美味しい。皮もさくさく。お薄も綺麗に美味しくできた。よかった。


こちらものんびりいただきつつ、こっそり深呼吸をひとつ。


平静は全然装えていない気がする。


……でも。

そんなことを置いても。頑張りどころはここでしょう。


チャンスを逃すな、私。今こそ、今度こそ、頑張るときだ。