「……瀧川さん」

「はい」


お嫌でしたらおっしゃってください、と前置き。


そっと手袋を外して、手を差し出す。


「お手をお借りしても、よろしいですか」


こわごわ背の高い横顔を見上げたけれど、瀧川さんはぴしりと固まってしまって、足をとめている。


困惑が貼りついた表情に、あの、と言い募る。


「ごめんなさい、私、歩くの遅いんです。ホッカイロも手袋もないと、すごく冷えてしまうと思います。だからその、せめて右手だけでもお借りすれば、少しは違うんじゃないかと……」


体温は高い方ですから、と途切れそうな言葉をなんとか結んだ。


手袋を外したのは、冷えた薄い布よりは、素手の方があたたかい気がしたからだ。


手を繋ぎたいとは言えなくて、お借りするだなんて逃げた私に、瀧川さんがゆっくり口を開く。


「いえ、でもそれは、ご迷惑をおかけしてしまいますし……」

「いいえ」


かすれた声に思わず強い否定を返して、慌ててつけ足した。


「迷惑だなんてそんな、とんでもないです。むしろ私こそわがままを申し上げてすみません」


一息に言い募った言い訳が、鋭く自分に跳ね返る。


ひどいブーメランだった。


……そうだ。わがままだ。手を繋ぎたいなんて、寒さにかこつけた、私のわがままだ。


自覚するともう駄目だった。