階段は五段しかない。降りたらすぐに手を離そうと思って道順の説明を聞いていたら、階段を降りきったところで、瀧川さんの指先が赤いことに気がついた。


私の視線をたどって、瀧川さんも自分の指先を見遣る。


「瀧川さん、ホッカイロはお持ちでは……」

「帰りのぶんを持ってくるのを忘れてしまって。でもここからすぐですから、大丈夫です」


ありがとうございます、と言われたけれど、すみません、残念ながら私、足の遅さには自信があります。


あんまり歩くのが遅いので、いつも、地図アプリを検索して出た時間に十分は余裕を持つようにしているくらい。


一生懸命さくさく歩いているつもりなんだけれど、悲しいことに、社会の平均から見ると、なんだかのんびり歩いているらしい。


瀧川さんの会社から十分、瀧川さんのお家から十五分。稲やさんから、二十分。

瀧川さんがおっしゃっていた時間に余裕を持たせると、結構大変なことになる。


カフェからお家までの道のりは瀧川さんからしたら短いかもしれないけれど、少し早足にしても、私の足に合わせていたらきっと冷えてしまう。

瀧川さんが私に合わせずに早足にしたり走らせたりするとは思えない。


ほとんど三十分近く手袋がなかったら、まるで凍えるような寒さだ。あいにく私もホッカイロを持ち合わせていない。


あまりに申し訳なくて、でもこれを言うのもためらわれて、小さく深呼吸をした。