瀧川さんは、あまり相席をしない。


稲やさんで食べるときは、一人席か、奥のお座敷に座る。休日で大変な混雑のときは、大抵お持ち帰りにする。


でも、もっとずっと前までは——瀧川さんが社会人になって、私がアルバイトを始めたばかりの頃は、お持ち帰りにしているところ以外、ほとんど見たことがなかったかもしれない。


「素敵な方だと思いました。一生懸命でお優しい方だと思いました。……あなたのような方がいらっしゃるなら、今度こそこちらで美味しくいただきたいと思いました」


できたてが、美味しいですから。


こぼされたつけ足しに息をのむ。


「っ」


『できたてが美味しいですから、よろしければ是非お席でどうぞ』


口ぐせのように繰り返していたのは、私。


事前に奥さんの見本を見たり打ち合わせをしたりして、こんな感じで言ってねって例示されたことをひとつももらさずメモして暗記して、必死に繰り返していた。


当時精一杯だった、おぼつかない接客がよみがえる。


「お礼が遅れてすみません。あの日、丁寧な対応と素敵なおすすめをしてくださってありがとうございました」


おかげさまで、すっかり常連です。